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社会学の未来:社会学をスル、ということ(1)(野宮大志郎)
◆社会学の未来:社会学をスル、ということ(1)
中央大学文学部教授
野宮大志郎(のみや・だいしろう)
「社会学者」と呼ばれる生態になってから、自己紹介をするたびに、誰からでも尋ねられることがある。「社会学って、どんな学問なんですか?」。別に、私個人の経験に限定することもなかろう。この問に答えるべく書かれた書物は実に多い。書店に行き社会学関連の本を見てみる、あるいは、インターネットで「社会学」で検索をしてみると、このことがよくわかる。
上述の問がこのように繰り返し出没することの背景には、この問が「学問」と呼ばれる世界に足を踏み入れようとする人たちの間で支配的なマインドセットになっているということがあろう。受験を考える高校生は、大学を選ぶときに大学に入ってから何をしたいかも同時に考える。社会について勉強したい、と思ったときに出てくるのが、上に書いた質問である。いや、高校生だけではない。社会学部や社会学科に入学することになった大学生も、同様の質問を、時には自分に、そして時には教員に投げかけてくる。
もちろん、社会学とはどんな学問なのか、という問いが重要ではないと言っているわけではない。むしろ、大変まっとうな、そして必ず問うべき問いであることに間違いない。しかし、私には、すこしばかり、この問いに引っかかりがある。より正確に言えば、この問いが流布するという今日の学問のあり方そのものに引っかかっている。
この問の中身を考えてもらいたい。いくつかのことがわかる。まずこの問を問う高校生や一部の大学生の目線には、「「社会学」と呼ばれる、ある確固とした学問がまず存在し、我々は、その中に入っていかなければならない。それをきちんと学習しなければならない」というメンタリティがあろう。この問を問う社会人などの目線からは「社会学と呼ばれる知識領域がある。社会学の何たるかぐらいは、少なくとも社会学者と呼ばれるのだから、知っているだろう」というメンタリティであろうか。
いずれのメンタリティも、今日の社会通念からすれば、もっともである。しかし、私が気にしているのは、これらメンタリティが共通して持っている前提である。すなわち、社会学という固定的学問体系があり、社会学に携わる人たちは、その固定的学問体系を勉強・学習して“身ニツケル”または“身ニツケテイル”人たちである」という意識である。すでに存在するものを、時間をかけて、頑張って、身につける、それで社会学領域に足を踏み入れたことの証明とする、という意識である。
繰り返して言うが、このメンタリティが悪いわけではない。事実大学は、「社会学士」、「社会学修士」、「社会学博士」などの称号を並べて、この傾向を後押ししている。しかし、私は、社会学という学問は、このメンタリティだけでは死んでしまう、と思っている。「そこにあるものを学習する」「きちんと知識として身につける」では、社会学が今日までその推進力としてきた大切な要素を落としてしまう、と感じている。
その大切な要素とは何か。社会の未来を考える力である。今、ここにあるものにばかり注目するのではなく、ここから先、未来に向かって、何をどうすればよいのかを考え、提案する力である。書籍の隅から隅までをきちっと勉強して既存の知識や学問体系を学習する力とは、異なる。すなわち「社会学って、どんな学問なんですか?」が問われる多くの場面で想定される物事からは外れる力である。
この未来を構想する力、これを中央社会学では特に重要視する。我々は、この力を「社会構想」力と呼ぶ。ただ、中央社会学の学生や関係者に限らず、社会学に興味のある方は、どなたでも、頭の隅に入れておいていただきたい力であると思っている。では、未来を構想する力とは何なのか、これを次回のブログで書いてみたい。キーワードは「社会学をスル」である。
◆プロフィール
米国ノースカロライナ大学チャペル・ヒル校大学院社会学修了。Ph.D.(社会学)。専門は社会運動論、グローバル社会学など。
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