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記事2026.05.14

国に土地を寄付する(ことの大変さ) (矢野善郎)

 東京にいると見えにくいが,日本は空前の不使用地・空き家問題を抱えている。ざっくりいえば,土地・家の所有者が死亡したあと,相続人たちがそれを利用しないからだが,人口減少・地方からの人口流出などにより益々問題が深刻化している。吉原の『人口減少時代の土地問題』では,単に不使用であるだけでなく,制度上の様々な不備の結果,私有地の約2割で現所有者が不明だという [吉原2017] 。

問題に取り組むため,2020年代になると国も幾つかの制度を導入する。その一つが,2023年から実施された「相続土地国庫帰属制度」。大まかに言えば,相続はしたが使う・売れるあてのない土地を,国に寄付するという制度だ。これは,不使用地問題を解決する妙案に見えるかもしれない。ただ実際に申請に関わった体験を振り返ると,手放しに礼賛はできない。

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 私の伯母は,ユニークな人物だった。神戸で大手商社に勤めていたが,終の棲家を建てる夢でもあったのだろう,温泉が出て各家に配給されることをウリにした三重県内の開発分譲地を1970年代に購入した。しかし,夢が叶わないまま亡くなった。配偶者も子もいなかったので,土地は母ともう一人の叔母が相続した。それから25年後の春,母からその土地のことが話題に出た。行ったことすらないその土地のため計数万円,固定資産税やら現地の自治会費やら毎年払っている。温泉もすぐに枯れ,供給は止まっているそうで,買い手などみつからない…いわゆる終活の相談である。そこで次世代に先送りするよりは国に寄付する制度を利用してみよう,ということになった。

 ただ国への寄付というものの,土地だけでなく,寄付する側はお金を相当払うことになる。審査だけで14,000円(申請にかかる出費はもちろん別で)。審査に通ると,最低でも20万円,条件次第では100万円以上の「管理費」を納付(10年分の管理費用という名目)。

 さらに制度利用の条件が結構うるさい。まず相続した山林か住宅地でないといけないし,相続者全員の同意,構造物などがない(空き家は寄付できない),借金の担保などになっていない,などなど。

 三重の土地の登記情報を調べてみると,なんと購入時のローンの抵当権が設定されたままであった。伯母はローン自体は完済しているのだが,抵当権抹消という登記手続きを怠っている。必要な書類は残っておらず,抵当権を持つ法人も既に存在しない。あきらめず色々調べ,ダメ元で,登記簿にあった旧法人を統合した企業を調べ問い合わせしてみる。幸い一流企業であり,丁寧に情報を見つけてくださり,数ヶ月後なんとか抹消できた。

 寄付の申請書類は,詳細なマニュアルや雛形ファイルもあり,専門家に依頼せずとも作成できる。ただし,土地の最新状況の確認,とりわけ境界などの写真が必要。Googleマップで土地は確認でき,構造物はなさそうだが,境界標までは映っていない。やはり一度は現地に行くしかない。

 申請前には,法務局との相談が必要だが,それはオンラインで行える。担当者が丁寧に応対してくれたので申請に必要なことは確認できた。しかしハードルがまた一つ。現地の自治会に連絡し,寄付後に国が会費を払わないですむよう確認書をもらってほしい,とのこと。夏休み中に自治会との折衝,現地検分を一挙に行えるよう手はずを整える。

 夏なので雑草が生い茂り,境界が見つからないかもしれない。捜索隊員として子どもを同乗させ,車で半日かけて三重に。無駄骨に終わる不安も多くあったが,現地に着いてみると,土地境界を探せるよう,自治会の方が親切にも雑草刈りをして下さっていた。あっさり必要な写真が撮影できる。

 こうして多くの準備に加え,幾つもの幸運にめぐまれ,9月にようやく申請までこぎつけることができた。ただ現時点(2026年1月)では,まだ寄付は承認されていない。法務局と国庫を管理する財務局による現地調査が行われるので,承認までは最低でも半年はかかるという。

 法務省によれば,相続土地の寄付の申請数はこれまで全国で4,712件。承認され国家に帰属した土地の数は2,240件(2025.11.30時点)[法務省 2025]。前年度よりは増えたというが,お世辞にも多い数とは言えない。条件に合う土地ばかりではなく,納入額もそこそこ高額,申請準備も簡単とは言えないので,むべなるかなというところである。

 とはいえ,国に土地を寄付するこの制度が益々活用されることが望ましい,とも一概には言えない。国庫に土地がたまったところで,税収源にもならず,管理が必要な割に,未活用なままなら価値も産み出さない。寄付のハードルは,あえて高く設定されているのかもしれない…。体験を振り返ると,そうした邪推すら浮かんでくる。


法務省 2025: 『相続土地国庫帰属制度の統計』2025.12.26.

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html


吉原 祥子 2017: 『人口減少時代の土地問題―「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』中公新書,中央公論社. 2017.



初出:矢野善郎「国に土地を寄付する(ことの大変さ) 」『中央社会学』第35号、中央大学社会学会、2026年、216-217頁  

この記事を書いた人
矢野 善郎
Yoshiro Yano

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