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想いをあきらめない気持ちを持ち続ける力(power of idea) (新原道信)
冬学期の朝早くや遅い時間帯の授業は、教室も寒く、外も暗くなり、身心に負担のかかる状態であったと思います。そのなかで、耳をすまし、言葉や映像の背後の想いを受けとめてくれるひとたちがいてくださったことで、なんとか今年度も最後まで辿り着きました。お付き合いいただき本当にありがとうございました。
すべての授業やゼミに共通していたのは、“ただ存在するという理由のみによって静かに尊重されるテリトリー”“異質性を含み混んだコミュニティ”への想いでした。それぞれの授業では、人間と社会と他の生命、生態系、惑星地球を“大きくつかむ”ことに「(我が)身を投じ」(上野英信)「我が身を持って証立てる」(ヘーゲル)ひとたちを紹介してきました。
たとえば都市社会学/国際フィールドワーク論という講義科目の序論部分では、私たちが「あたりまえ」のものとして享受している都市的生活の背後に、現代の人間と社会が抱えるどのような“根本問題”があるのかを考えました。
“生身の社会”にふれる、生身で社会学する”ために、これまでわたしが友人・仲間たちと行ってきた “惑星社会(境界領域/内なる惑星/コミュニティ)のフィールドワーク” の一部を紹介するかたちで本論部分を組み立てました。
本論①では、“「壁」の増殖”をテーマとして、“境界領域のフィールドワーク”からの知見を紹介しました。
本論②では、“異質性を含み混んだコミュニティ”への願望をテーマとして、“コミュニティ研究(コミュニティでのデイリーワーク)”からの知見を紹介しました。
本論③と結論部では、これほど複合的で解決困難な“惑星社会の諸問題を引き受け/応答する”生き方/行き方を紹介しました。緒方貞子さんは、“「壁」の増殖”による“受難者/受難民”の増大に応答するひととして紹介しました。
黒柳徹子さんが育ったトモヱ学園の小林宗作先生は、“異質性を含み混んだコミュニティ”への“願望と企図の力”をもったひととして紹介しました。
これらの人たちに共通していたのは、“想いをあきらめない気持ちを持ち続ける力(power of idea)”、“そこに自分がいなくなった後の場のうごきに想いを馳せる力(power of caring)”であったと思います。
孤独のなかで生きたサイードは、亡くなる直前に、ネルソン・マンデラへの敬慕とともに、power of ideaについて語りました。スティーブ・ジョブズは、バックミンスター・フラーの「Stay hungry Stay foolish」という言葉とともに、“そこに自分がいなくなった後の場のうごきに想いを馳せる力”を、若いひとたちに喚起しました。
では、わたしは、みなさんに何を“問いかける”ことが出来るのでしょうか。
“惑星社会の諸問題を引き受け/応答する”のはそう簡単なことではないです。一個人として何ができるかなど考えてもどうにもならないと思ってしまうのも仕方がありません。しかし、この「ものわかりのよさ」、ファビング(phubbing、眼前の生身の人間への冷遇と無関心) から、少しだけ“ぶれてはみ出す”ことが出来たなら、自分でも驚くくらいにも他者や社会に影響を与えます(そういう社会、相互に連関し作用し合う惑星地球規模の社会を、いま私たちは生きています)。その影響が分断や排除となるのか、誰かとともに生きることになるのかは、私たち一人一人の振る舞いに託されています。個々人の行為がもたらす相互作用が惑星社会の“命運/運命(fate/destiny, destino)”を決めていくような社会を生きていることに気付くことから始めるしかないのです。
Think planetary, act locally with humility――とても想像が及ばないような惑星地球規模の問題を考えることをあきらめず,“低きより(高みから裁くのでなく、地上から、廃墟から)”“慎み深く、思慮深く、自らの限界を識ること(umiltà, decency)”とともに、小さなことをやっていく。言葉が届かないかもしれないことなど気にせず語りかけること、自分からうごいてその背中を見せること、見えないところで汗をかくこと。自分の奥底で、内奥で、言葉にならない深い“痛み/傷み/悼み(patientiae, doloris ex societas)”や孤独をもっていたとしても、“ともに(共に/伴って/友として)創ること”をあきらめないこと。そう思ってみなさんに語りかけてきました。
初出:新原道信「想いをあきらめない気持ちを持ち続ける力(power of idea)」『中央社会学』第34号、中央大学社会学会、2025年、168-169頁
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