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少子化対策こぼれ話(山田昌弘)
昨年(2023年)は、1月4日の岸田首相の異次元少子化対策でもって始まり、メディアはこぞって報道し、私も何度かメディアで発言した。メディアはデータや新しい政策が出る度に報道はするが、結局はたいした対策も打たれず、2024年の震災が起きると、もう忘れ去られたような気分で政府も報道も推移しているようである。
速報値から見る限り、コロナ禍からの回復は進み行動制限もなくなっているのにもかかわらず、2023年の出生はもちろん結婚も大きく減ることは確実である。本稿が印刷される頃には、推計値が出ているだろうが、書いている時点(2024年1月末)の私の予測だと、出生は75万人弱(2022年は77万0759強)、婚姻は48万組弱(2022年は50万4930)となるはずである。学生のみなさんが生まれた頃、2000年には119万人生まれ、約80万組が結婚していた頃に比べると、出生も婚姻も三分の一以上減っていることになる。
私が政府の委員として関わったのは、なんと30年前、1994年の厚生省人口問題研究所(当時)の研究会委員、そして、厚生省(当時)の子育て調査グループに加わったのが最初である。当時は、いわゆる1990年の1.57ショックから4年しか経っておらず、それほど危機感がない中で研究会だけは始まった。
そして、1998年には人口問題審議会(厚生省・当時)や国民生活審議会(経済企画庁・当時)のメンバーとなり政治家や官僚に発言を繰り返してきた。その経緯は『日本でなぜ少子化対策は失敗したのか』(2021年光文社新書)に書いたので繰り返さないが、「若者が結婚して子育て生活するのに不十分な収入しか得られていない」ことを繰り返し訴えてきた。
ただ、30年官僚や政治家とつきあってきて感じたのは、「金」と「票」になるものしか関心がない政治家が多く、大きな改革を行って文句を言われるのを避けようとする官僚が多いということだ。これは、地方政治家や地方官僚も同じである。
少子化、結婚対策は、その効果が明らかになるため、何十年もかかる。それなら、今効果がある「高齢者」対策をした方が票になる。お金に関しても、若者の経済対策への補助金で儲かる企業は少ない、唯一関心を集めたのは、結婚情報サービス業でのIT化補助金で、そこにたくさんの国会議員が群がるのをみてきたが、それは、少子化の根本的対策にならない。
日本の官僚は優秀で、目先の課題に対する対処能力はすぐれていると思う。しかし、制度の抜本的改革は、官僚では出来ない。制度を大きく動かすと必ず「損」をするグループがでてくるので、その反対を押し切ってまで抜本的に変えることはしない(例えば、年金制度の三号被保険者制度は、あらゆる審議会であらゆる学者委員が不公平と指摘し、廃止を進言しているが、政治家や官僚は、野党も含めてだれも手を付けたがらない。私も政府税制調査会で二度発言したが、結局はなくならない)。育児休業給付金も、非正規雇用者やフリーランスには適応されない不合理性を何度も指摘してきたが、「育児期間中の社会保険料免除」でごまかされてしまった(これでも、多少は勝ち取れたと思っている。同じ事でもしつこく言い続けるのは重要である)。
ハンガリーのオルバン政権のようにカリスマ的な指導者が現れなければ、少子化に対する抜本的な制度改革は無理なのだろうか?それも怖いことだけれど。
最近は、私も歳を取り、愚痴っぽくなり(学生のみなさんはなんども聞いていると思うが)、「諦め」そうになっているが、昨年の編著『今時の若者のリアル』(PHP新書)でも書いたとおり、「今の若者の苦しい状況を作り出してしまったのは、今の中高年世代に責任がある」ということで、なんとか踏みとどまっている。これも愚痴と言い訳かも知れないと思いつつ。
(以上)
初出:山田昌弘「少子化対策こぼれ話」『中央社会学』第33号、中央大学社会学会、2024年、215-216頁
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