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記事2021.05.27

“ともに(共に/伴って/友として)創ることを始める”  (新原 道信)

(写真:シチリア・パレルモ空港に掲げられたアフリカからの難民についての展示(2018年3月6日撮影))


初出:『中央社会学・社会情報学』(中央大学社会学・社会情報学会 2019年3月)「社会の読み方」


“ともに(共に/伴って/友として)創ることを始める” 新原道信    


人類は、地球に住むことの責任/応答力、そして種を破滅に導くような生産物に対して、絶対に侵犯してはならぬ境界を定めるという責任/応答力を引き受けねばならない。人間の文化は、存在しているものは何であれ、ただ存在するという理由のみによって静かに尊重されるようなテリトリーを、今一度確保すべきである。(アルベルト・メルッチ「地球に住む」『プレイング・セルフ――惑星社会における人間と意味』ハーベスト社、176頁)


 2018年12月は、いつも以上に忙しく、大学でも自宅でも、常に飛び込んでくる様々な「事件」に応答しながら活動していました。12月8日には、第27回中央大学学術シンポジウム「地球社会の複合的諸問題への応答」において、地球社会(Planetary Society)として現代社会を把握し、そこに生じる複合的な諸問題(the multiple problems)を、どのように研究し、いかなる応答をしていくのかを、社会科学の視点からとらえ直す試みをしました(中央大学社会科学研究所のHPに開催報告が掲載されています)。

 その翌日の12月9日には、長年のつきあいとなっている立川団地の方たちの前で、院生・学生諸氏が報告会を行い、いまここにない「ただ存在するという理由のみによって静かに尊重されるようなテリトリー」を、“ともに(共に/伴って/友として)創ることを始める” ことについて、団地の方々との間で理解を共有しました 。

 初日は研究者の方たちとの間で、二日目は地域の方たちとの間で、“共創・共成”の可能性を模索していたことになります。この二つの試みの背景には、本文冒頭のメルッチさんの言葉にあるような、地球規模でこの社会の問題を考え、実際の地域のなかで“ともに創る” という構想が在りました。幸い、いずれの場にも、多くの学生・院生、そして卒業生たちが参加してくれました。中央大学に赴任して以来、大学という「場(ゼミや講義・実習の場)」が、“生身の現実(crude reality)”に臆せずかかわろうとする “臨場・臨床的な在り方(ways of being involved in the crude reality)”の「工房」となってくれていることに、ただただ感謝しています。このような試みは、とりわけいまの社会において、有り難いものであるからこそ必要なものであると考えているからです。それは、とりわけ以下のような「問い」に応答するためです。


現代社会が生み出す社会的痛苦の増大を抑止し、縮減にむけての“多系/多茎の可能性”を誘発する“うごき”を促すために、何が出来るのか。地球規模の複合的諸問題に応答する“臨場・臨床の智”――惑星地球をひとつの海として、社会をそのなかに浮かぶ島々として体感するような“智”――を、いかにして紡ぎ出すのか。地球の、他の生き物の、他の人間の、“不協の悲鳴(le grida disfoniche)”を感知することを、いかにして可能とするのか。そのための「工房」とは、いかなるものか。コミュニティ研究やフィールドワークに出来ることはあるのか。“惑星社会のフィールドワーク”は、いかにして可能か、その条件は? 


 Think planetary, act contrapuntally and poly/dis-phonically――惑星の思考をもって、“対話的/対位的に(dialogically and contrapuntally)”、“跛行的に(unsymmetrically, contrapuntally and poly/dis-phonically)”、

“ともに(共に/伴って/友として)創ることを始める” ――もしこうした共通感覚を持つことができたならば、異質なものの根絶・排除や紛争、いじめや、自然や他の生物に対する破壊・虐待をずいぶんと減らせるはずです。

 このようなことを考えながら、社会をつくる力が育つかもしれない「工房」の普請に力を注ぎつつ、「社会のオペレーター(生活の場に居合わせ、声を聴き、要求の真意をつかみ、様々な「領域」を行き来し、〈ひとのつながりの新たなかたち〉を構想していくひと)」を育て続けるしかないかと思っています。“ともに(共に/伴って/友として)創ることを始め”てくれている学生のみなさんに、こころから深い感謝をしつつ。 


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 新原ゼミでは、院・学部・FLP(国際協力と地域公共)ゼミ有志で、立川・砂川地区をフィールドとして、団地や砂川地区の他の諸組織・団体(連合子供会(砂子連)、立川5中、9小、大山小、児童館、児童養護施設など)での活動に参加させていただいています。



この記事を書いた人
新原 道信
Michinobu Niihara

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