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「発展途上国化する日本-海外に出稼ぎに行く日本の若者たち」 (山田 昌弘)
初出:『中央社会学』(中央大学社会学会 2023年3月)「社会の読み方」
「発展途上国化する日本-海外に出稼ぎに行く日本の若者たち」
山田昌弘
私は、東京都の社会福祉審議会・分科会長として、2040年の東京都の福祉のあり方について、その答申案を作成中である(2023年3月現在)。その中で、委員の1人である東京都医師会長が「看護師の資格を持っている若い人がオーストラリアに出稼ぎに行って、介護職で働いて何倍もの収入を得ているという。介護職や看護職の待遇を改善しないと、日本から介護する人がいなくなってしまう」と危機感をもって発言していた。彼の発言は、先日、NHKで放映されたクローズアップ現代で、「安いニッポン 若者が海外出稼ぎへ!」(2月1日放送)を踏まえたものだろう。なんと、ケア労働で月収80万円だという。
ケア労働だけではない。私は、15年ほど前から、日本を離れアジア(主に香港やシンガポール)に働きに行った若い人たちにインタビュー調査してきた。彼らは、口々に、。特に、女性は、日本の職場における女性差別を語る。「英語もパソコンも出来ない中年男性が威張っていて契約社員の私の何倍の給料をとっている」とか「男性は仕事できなくても正社員なら管理職にみんななっているのに女性はそうではない」と日本の女性差別環境を語っていた。香港でインタビューした中大文学部出身の女性は、現地で弁護士資格を取り、香港人の医者と結婚して、メイドが何人もいる豪邸に住んで充実した生活を送っている。日本人は真面目で勤勉なので、海外ではどんどん出世して、現地の人と結婚し、子どもも産み育てているのだ。30歳前後の有名大学卒の男性にインタビューしたとき、彼の収入が私の収入を上回っていたことに愕然としたこともある。彼の同期で日本に就職した者より数倍の収入を得ているのだ。
日本は、1990年頃まではJapan as No.1と呼ばれ、1人当たりGDPは、アメリカとほとんど同じ、シンガポールより高く香港の倍以上あった。しかし、平成を通じて日本は経済停滞が続き、とうとう1人当たりGDPでは、アメリカは日本の2.5倍、シンガポールは日本の倍、香港は日本の1.5倍である。グローバル化の中で、日本はどんどん貧しくなり、そのツケは若者に押しつけられ、低賃金で長時間働く国になっている。
私は、ある所で、「文部科学省が、英語教育に力を入れないのは、英語が話せるようになって海外に人材が流出するのを防ぐための策略である」という発言をしたら、けっこう賛同を受けてしまったことがある。
私は、政府に労働改革を働きかけ、私のような中高年の賃金を下げて、若者、女性にチャンスをと主張はするが、私ごときの発言で政策が変わるわけはなく、今の労働慣行を変えることをしようとはしない。
学生のみなさんに、海外に行きなさいと積極的に勧めるつもりはない。しかし、英語さえ使いこなせれば、世界にチャンスが広がることは確かである。そのような人が増えれば、政府も考え方を改めるかもしれない。そうしなければ、高齢者になった私は日本ではまともな介護が受けられないという状況に陥るかもしれないと心配するこのごろである。
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