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やがて悲しきコロナのあと (野宮 大志郎)
初出:『中央社会学』(中央大学社会学会 2023年3月)「社会の読み方」
やがて悲しきコロナのあと
野宮大志郎
あれは、お茶の間の娯楽クイズ番組で「別世界に住んで見たら、さあ皆さん、一体どうなりますでしょうか?」という問いに対して、世界中の人々がこぞって答える、という半ばおもしろ番組だったのではないか。過去2-3年を振り返ってみて、今はそう思う。
不謹慎な言い方をして申し訳ない。今日、我々の「ここ」に至るまでには多くの方が亡くなっている。その事実を無視する訳では決してない。しかし、社会の反応という点からは、「COVID-19」は「壮大な社会実験」ですらもなかったのではないかと今は思う。
確かに当時、「コオービッド・ナインティーン」という見えない魔物が我々を薙ぎ倒しながら、世界中を闊歩する姿が描かれた。我々は、この脅威に対して、一様に「適応しなければならない」と思った。当時「New Normal」などという言葉で、新しく生まれ変わる世界にタイトルが付けられ、語り始められる。この描かれ方がまた軽妙である。オンライン会議など、インターネットを利用した革新的な未来とその新しい秩序について、半ば期待を込めて描かれるものもあった。その言いぶりは、「ウイズ・コロナ(コロナとの共存)」であった。コロナの猛威のもと、全く新しい条件下での生存が、未来学的に語られた。新しい国際秩序の建設も始まった。コロナサバイバルである。すなわち、コロナ被災者の数がコロナと戦う国の「国力」を表すように連日ニュースを賑わす。コロナ伝染当初、マスク需要が一瞬で世界を席巻したときには、マスクが人々に行き渡る国や地域が先進国となった。
しかし、この2-3年間存在した世界も、今となっては遠い昔の話のように思える。New Normalなど、ついぞ創り上げられなかった。「コロナとの共存」とうい言葉はどこかに消えていってしまった。コロナと共に描かれた新しい世界が消えていった後、我々はどこに行ったか。実は、どこにも行っていない。コロナが登場する前の昔の世界や社会になんとなく流れ着いて、大人しく座っているだけである。
コロナ以前の世界に戻る競争の中で、真っ先にスタートを切ったのは誰か。人々の口からマスクを外した国々であろう。こうした政策に転換した国をニュースで見た時、「これって、本当に大丈夫なの???」と思った人は少なくはない筈だ。確かに、国家レベルでそうした政策転換をするのは大変な決断だ。更なる犠牲を出すことを承知の上の、大きな決断であったろう。しかし今日、「コロナ前の世界」に戻ることが世界標準となった。コロナ犠牲者の数が報道されても、今は見向きもされないインジケータになってしまった。
何が、この世界の大転換を産んだのか。私は、資本主義だと答えたい。ただ、さらに、資本主義の世界に慣れ親しんだ、もしくはがんじがらめになった現代人だという答えも付け加えておきたい。コロナが世界を闊歩する時、人々は経済生活に苦しんだ。なぜ、人々は生活に苦しまなければならなかったか。今日の経済は、人々の間での交易によって成り立つ。その交易がなくなれば資本主義経済システムは動かない。資本主義経済システムの中で生きることを教わった、もしくは強いられた人々は、システムが動かないと死に絶える。ここからくるプレッシャーが、資本主義の再稼働を狙って動き出す。「経済を回す」としきりに言われたのは、資本主義の再生へ向けての合言葉だったのだ。
このことから何が見えるか。資本主義の堅牢さである。同時に、資本主義というシステムの手の中で生きている我々が、あるいはその手の中でしか生きられない我々が、そのシステムを打ち破ることがいかに困難であるか、である。
言ってみれば、コロナは資本主義への挑戦だったのかもしれない。そしてコロナは敗れた。今となっては、コロナは、私たちに、全く新しい世界を作り上げるための機会を渡そうとしてくれていたのかもしれない、とすら思える。コロナのあと、新しい世界をつくるチャンスはいつくるだろうか。
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